シークエンス

シー・クエンス
仕事ものがたり

少女が書いた七夕の短冊に、創業を誓った日。

「シー・クエンス株式会社を創業した理由は、見知らぬ少女が書いた一枚の短冊だった」と藤井は話す。生命保険会社の営業職だったサラリーマン時代、2007年のことだった。藤井は、土地の有効活用を事業とする会社に出資していたが、その後、経営に行き詰まり、未払金をかぶるハメになってしまう。ところが、未払金の支払いに関するやりとりがきっかけとなり、宅地に関わる仕事をしてみないかと持ちかけられた。いわば“いきがかり上やらざるをえない”状態だったため、流れに任せて宅地を扱うことに。

季節はちょうど初夏になっていた。ある住宅企業のイベントに出向いた時、会場には七夕飾りがほどこされ、来場した子ども達による短冊が何十枚も笹に掛けられていた。そこで藤井が偶然見た短冊が、運命を変えたともいうべき一枚だったのである。

そこには「おばあちゃんにおへやができるといいな かみさま おねがい ゆみ」と書かれていた。それを読んだ藤井はその場で立ち尽くしてしまう。少女のおばあちゃんへの想いと住まいへの夢を、たった一行の言葉からひしひしと感じたからだ。ゆみちゃんは、大好きなおばあちゃんと一緒に暮らしたいが、土地が見つからないことから家を建てることができないことを嘆いている。こんな切実な、けれど夢のある言葉をそれまで見聞きしたことはなかった。

そして、このいたいけな少女の夢を叶えてあげる仕事こそ、その後の人生に課せられた自分の使命なのではないか、と考えたのだった。藤井啓公、47歳の夏だった。