シークエンス

シー・クエンス
仕事ものがたり

母と並んで眠った子供の頃のこと、母への想い。

昭和37年、山口県に生を受けた藤井は、生後まもなく母とふたり暮らしとなる。事情があって両親が離婚したためであった。産後の肥立ちがよくなかった母は、およそ40日意識不明で生死をさまよい、その挙句に離婚して、幼子を抱えて生きていかねばならなかった。時代性を考えても、相当な苦労だっただろう。しかし母は強かった。学があったため、家庭教師をしながら生計をたてていた母は、夜になると藤井と一緒に並んで眠るのが常だった。

当時住んでいたアパートは、トイレは共同、風呂のない家。寝静まると天井裏をネズミが走る。怖くなった藤井少年が母に「何の音なの?」と尋ねると、母は決まって「ネズミが天井で美味しいものを食べているんだね」と話してくれた。夜中に美味しいものが食べられるネズミをうらやましく思った藤井は、小学校の作文に“ぼくはネズミになりたい”と書いてしまう。それを読んだ学校の先生は、心配して母に連絡をしてきたという。すると母がこう言い放った。「先生、世界で一番人気の動物はミッキーマウス。子供たちが大好きなのはネズミなんですよ」と。母の堂々たる信念のもと、藤井少年は自らの境遇に卑屈になることなく、実におおらかに育っていった。「家を母に買ってあげたい」と藤井が願うようになるのは、ごく自然なことであり、今から思えば、この時すでに宅地開発事業への夢を胸に秘めていたことになる。