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中秋の名月に思う

今年の中秋の名月は、9月17日火曜日である。かつての日本は陰暦で、月の満ち欠けとともに日々の暮らしの軸が決められていた。太陽暦になったのは、明治維新以降、欧州列国の風習に日本が合わせた形なのだ。ワインや野菜の世界で、“ビオディナミ”とか“バイオダイナミックス”と呼ばれるのは、月の動きをベースにした農事暦に基づいて生産された農作物のことで、その方法で栽培されたものは生産量や味わいに影響が出るという考え方である。農事暦には詳しくなくても、お月見の習慣を今も暮らしに取り入れている人は決して少なくない。

現代においてもその頃のお月見の趣向が残っているのは、日本人のDNAに残っている陰暦の風習があるからではないだろうか。人はなぜか月を見つけると、立ち止まる。時として月を語る詩人になる。わたしたちのご先祖さんたちもきっと愛でた中秋の名月を、ぜひ大切な人と一緒に眺めていただきたい。

最後に日本人らしい「恥じらい」を含んだ、月にまつわる告白のエピソードを紹介しよう。英語教師だった夏目漱石は、好きな人に「I love you」と伝える代わりに、「今夜は月がきれいですね」と言った、のだそうだ。